日本医薬品添加剤協会
Safety Data
|  Home | menu |

和名 メチルイソブチルケトン
英文名 Methyl Isobutyl Ketone

CAS 108-10-1 (link to ChemIDplus)
別名 イソプロピルアセトン、ヘキソン、Isopropyl Acetone , MIBK

収載公定書  薬添規(JPE2018)
用途 溶剤,溶解剤


単回投与毒性 (link to ChemIDplus)
反復投与毒性 (link to TOXLINE)
遺伝毒性 (link to CCRIS)
がん原性
生殖発生毒性 (link to DART)
局所刺激性
その他の毒性


ヒトにおける知見 (link to HSDB)
急性毒性
感覚閾値に関する試験では、Silvermanら(1946年)がボランティアの男女12例に対して、さまざまな濃度のMIBKへの曝露を15分間実施した。15分間という時間は、嗅覚疲労および粘膜刺激の増大または低下について、正確な観察を可能にするものであった。感覚反応の限界は、410 mg/m3(100 ppm)であった。被験者の大半は、820 mg/m3(200 ppm)で不快臭を感じ、その蒸気は、眼を刺激した。臭気閾値(1.64 mg/m3)(Ruth、1986年)が低く、刺激作用を示すことから、高濃度の場合に注意が促される。粘性が低いため、MIBKを飲み込んだ場合には、肺内にも吸引されて化学性肺炎が生じることがある。1)(Panson&Winek、1980)

短期曝露
410 mg/m3(100 ppm)のMIBKに曝露した労働者は、頭痛および悪心か、または呼吸刺激のいずれかを訴えた(Elkins、1959年)。耐性については、就業日には獲得されるが、週末にかけて消失すると言われた。曝露が82 mg/m3(20 ppm)に低下すると、愁訴は大半が消失した。ヒトボランティアを対象としたHjelmら(1990年)の試験(第6.3項を参照)では、濃度10〜200 mg/m3(2.4〜48.8 ppm)のMIBKに2時間曝露すると、CNS症状(頭痛および/または眩暈および/または悪心)が報告された。反応時間課題の成績または暗算テストに関しては、曝露による有意な影響は認められなかった。

眼刺激および呼吸刺激
濃度820 mg/m3(200 ppm)のMIBKに15分間曝露すると、ヒトボランティア12例において眼刺激が認められた(Silvermanら、1946年)。未希釈のMIBKが眼に入ると有痛性の刺激が生じることがある(Shell、1957年)。410 mg/m3(100 ppm)のMIBKに曝露した労働者のグループは、気道刺激を訴えたが、82 mg/m3(20 ppm)では、愁訴は認められなかった(Elkins、1959年)。ヒトボランティアを対象としたHjelmら(1990年)の試験(第6.3項参照)では、10、100および200 mg/m3(2.4、24.4および48.8 ppm)の濃度に2時間曝露すると、特に鼻咽頭に刺激が認められることが報告された。

長期曝露
1日あたり最大2050 mg/m3(500 ppm)のMIBKに20〜30分間曝露し、就業日の残りの大半を328 mg/m3(80 ppm)に曝露した労働者では、労働者19例の中で半数を上回る者が脱力感、食欲不振、頭痛、眼刺激、胃痛、悪心、嘔吐および咽頭炎を訴えた。少数の労働者が不眠症、傾眠、胸やけ、腸管痛および多少のふらつきを経験した。4例では、肝がわずかに腫大し、6例には、非特異性大腸炎が認められた。臨床化学検査では、いずれの労働者においても異常は判明しなかった。5年後に作業環境等が大いに改善され、MIBKの最大濃度は410〜430 mg/m3(100~105 ppm)となり、総濃度が205 mg/m3(50 ppm)となった。小数の労働者が依然として消化管系および中枢神経系の症状を訴え、2例ではわずかな肝腫大が持続していたが、このほかの症状は消失した。2)(Armeli et al、1968)

胎盤通過
MIBKは、患者11例からの母体血および臍帯血において検出された。3)(Dowty et al, 1976)

神経毒性
神経毒性物質をはじめとするMIBKなどの炭化水素溶剤を明らかに含有するスプレー用塗料またはラッカーシンナーへの曝露により、末梢ニューロパシーの散発例が数例報告されている。4) 5)(OH & Kim、1976;AUBUNCHON et al、1979)

その他
環境に対する作用の評価
MIBKが環境中に残存する可能性はないと思われる。土壌および水から徐々に揮発すると思われ、淡水および海水中で容易に生分解される。大気中では、MIBKは、水酸基ラジカルによって分解されると推定され、半減期は約14時間である。また、MIBKは、生物濃縮されないと思われ、微生物、魚類、藻類および水生無脊椎動物に対する毒性が低い。MIBKが環境中の生物に対して毒性を引き起こす可能性のある濃度になるのは、環境中に廃棄物が偶発的に漏出した場合または不適切に廃棄された場合に限られる。

ヒトに対する健康リスクの評価
一般母集団は、低濃度のMIBKに曝露している。食物中および飲料水などの飲料中において、ごくわずかな量が検出されている(焼き菓子、10.9 mg/kg;冷凍乳製品、11.5 mg/kg;ゼラチン、デザート類、10.9 mg/kg;飲料、10.2 mg/kg)。一般母集団の曝露については、2つの国で最大環境大気濃度が0.1〜0.2 mg/m3の範囲内と規定されている。

職業曝露は、特にラッカー、塗料および抽出溶剤の生産および使用において発生する。主な侵入経路は、吸入によるものである。臭気閾値(1.64 mg/m3)が低く、刺激作用を示すことから、高濃度の場合に注意が促される。10〜410 mg/m3(2.4〜100 ppm)の濃度に曝露すると、眼、鼻または咽頭のいずれかに知覚可能な刺激が生じ、820 mg/m3(200 ppm)では、不快感が生じた。10〜410 mg/m3(2.4〜100 ppm)の濃度では、このほか頭痛、悪心、眩暈などの症状が生じた。最大200 mg/m3(50 ppm)の濃度に2時間曝露しても、簡単な反応時間課題または暗算テストに対する有意な影響は認められなかった。

1日あたり2050 mg/m3(500 ppm)のMIBKに20〜30分間曝露し、就業日の残りの大半を328 mg/m3(80 ppm)に曝露している労働者を対象とした長期職業曝露に関する1件の報告では、労働者19例のうち半数を超える者が脱力感、食欲不振、頭痛、眼刺激、胃痛、悪心、嘔吐および咽頭炎を訴えた。少数の労働者が不眠症、傾眠および多少のふらつきを経験した。4例では、肝がわずかに腫大し、6例では、非特異性大腸炎がみられた。5年後、作業環境等が大いに改善され、最大濃度は、以前の濃度の約1/5に低下した。小数の労働者が依然として眼および上気道の刺激のほか、消化管系および中枢神経系の症状を訴えた。MIBKによる長時間の皮膚接触は、皮膚の刺激および剥離を引き起こした。

動物試験では、経口経路および吸入経路によるMIBKの急性全身毒性は低い。90日試験では、SDラットに用量50、250または1000 mg/kg体重/日のMIBKを胃管栄養法により投与した。最大用量群では、嗜眠がみられ、雄では体重増加の低下がみられた。このグループでは、ネフロパシーがみられ、相対腎重量の増大および肝腫大が認められた。250 mg/kg/日を摂食したラットでも相対腎重量が増大し、雄ラットにのみにわずかな肝腫大が報告された。いずれの投与量でも、肝またはその他の組織に組織病理学的な病変は、認められなかった。NOELは、50 mg/kg/日であると結論づけられた。ラットおよびマウスを用いた90日間の吸入試験では、最大4100 mg/m3(1000 ppm)の濃度で致死的な毒性を示す徴候は、全く認められなかった。しかし、肝および腎において化合物に関連した可逆的な形態学的変化が報告された。4100 mg/m3の濃度で中枢神経系の抑制を示す証拠が認められた。MIBKは(1025 mg/m3(250 ppm)を上回る量で)、肝重量を増大させ、肝ミクロソーム代謝を誘導することが可能であった。このことから、ハロアルカンの毒性の増悪およびn-ヘキサンの神経毒性の相乗作用が理解できると思われる。マウス、ラット、イヌおよびサルを用いた90日試験では、雄ラットのみに腎の近位尿細管に硝子滴が発生した(硝子滴毒性尿細管ネフローゼ)。雄ラットにみるこの作用は可逆性であり、ヒトに対して意義のあるものかどうかは疑わしい。MIBKは、in vitroでマウス肝のアルコールデヒドロゲナーゼ活性を低下させる。このほか、ビリルビンによるかよらないかに関わらず、マンガンの胆汁うっ滞作用を増強することが判明した。

妊娠6〜15日目に濃度1230、4100または12300 mg/m3(300、1000または3000 ppm)のMIBKを吸入曝露し、21日目(ラット)または18日目(マウス)に屠殺されたラットおよびマウスでは、いずれの種でも最大濃度で著明な母体毒性が観察された。この濃度は、胎児毒性(胎児重量の低下および骨形成の遅延)をもたらしたが、胚毒性も催奇形性も示さなかった。4100 mg/m3および1230 mg/m3では、母体毒性は認められず、胚毒性、胎児毒性および催奇形性を示す証拠も認められなかった。

MIBKは、代謝活性化を伴う場合も伴わない場合も、いずれも細菌試験系(ネズミチフス菌(Salmonella typhimurium)および大腸菌(Escherichia coli))において、遺伝子突然変異を誘発しなかった。酵母(Saccharomyces cerevisiae)の有糸分裂遺伝子変換に対する試験(代謝活性化を伴う場合と伴わない場合の両者)および培養哺乳類細胞(マウスリンフォーマ)を用いた遺伝子突然変異試験においても、陰性の結果が得られた。ラット初代肝細胞における不定期DNA合成ならびにラット培養肝細胞(RL4)における染色体構造損傷に対するin vitroアッセイにおいて陰性であり、さらに、in vivoのマウス小核試験で陰性であった。以上のデータから、MIBKが遺伝毒性を示さないことが明らかなっている。

引用文献
1) Panson&Winek、Aspiration toxicity of Ketones. Clin.. Toxicol. ,. 1980; 17: 271-317

2) Armeli ,G.,LINARI,F.,&MARTORANO,G. [Clinical and haematochemical examination in workers exposed to the action of a higer ketone (MIBK) repeated after 5 years.] Lav.Um., 1968; 20: 418-424

3) Dowty B.J, LASETER, J.L .,& STORER,J. The transplacental constituents. Pediatr. Res., 1976; 10: 696-701

4) OH ,S.J.& Kim、J.M. Giant axonal swelling in “Huffer’s”neuropathy. Arch.Neurol., 1976; 33: 583-586

5) AUBUNCHON ,J.,ROBINS,H.I.,& VISESKUL,C. peripheral neuropathy after exposure to metyl isobutyl ketone in spray paint. Lancet, August 1979; 18: 363-364



   



copyright(C) 2005 日本医薬品添加剤協会 all rights reserved
Japan Pharmaceutical Excipients Council